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永井寛子×箕浦一哉氏対談(2019.9)

スペースふうが2002年にNPO 法人格を取得し、2003 年にリユース食器レンタル事業を本格スタートしてから16 年。

名前は聞いたことはあるけれど、「リユース」「リサイクル」も一緒なのかな、今さら聞けないよねという人たちも多く、「永井さんの団体」という印象が強いのも事実。
今回、設立時からずっとスペースふうを見守ってくださっている山梨県立大学箕浦一哉教授と理事長永井寛子が対談し、スペースふうの実態に迫りました。

(2018年度活動報告書の特集より/2019.12.21)
 
使い捨て社会を変えていきたい。
 
リユース食器事業の枠をはみ出ているスペースふう。 
 
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箕浦: スペースふうは「リユース食器レンタル事業」が表のわかりやすい顔ですが、そこからはみ出て、さまざまなことに取り組んでいらっしゃるところが面白いと思っています。
 
全国ネットワーク「ふうネット」を展開したり、山梨県エコイベントガイドラインを提案した り、富士川町との協働事業・制度づくりがあったり、最近ではマイクロプラスチック削減のためのネットワ ークづくりにも取り組んでいらっしゃいます。
 
そうした取り組みを拝見していると、ただ自分たちのリユース食器レンタル事業を成功させたいという以上のモチベーションがあると感じます。そもそもスペースふうがリユース食器のレンタル事業をやっているのはなぜですか?
 
永井: 社会を変えたいっていう思いですかね。
 
箕浦: どういうところを変えたいって思っていらっしゃるんでしょうか?
 
永井: 一言で言ってしまえば、ごみを出さない“脱 使い捨て 社会”に変えたいということです。そもそもリユース食器のレンタル事業を始めようとしたきっかけは、イベントに行ってごみの山を見た時に、こういうごみ文化を子や孫の世代に伝えていいのかっていう疑問を持っ た、そこから始まったんです。
 
それから 16~17年経ちましたけれども、今や状況は地球規模の環境問題へと悪化しています。プラスチックごみによる海洋汚染が深刻化してくるなかで、使い捨て食器(そのほとんどはプラスチック製)をなくそうとするスペースふうの活動は新たなステージに入ったと思っています。
 
今、世界は脱使い捨てプラスチックの方向へと急速に動いていますよね。
 
最近、G20 が大阪で開催されたこともあり、日本も少しずつ動き出そうとしているけれども、国が動かないんだったら市民が動いたらいい、「誰もやらないなら自分たちがやればいい」
 
私は直接プラスチックごみに日々向き合っている身として、行政が動くのを待つんじゃなくて、私たちが行政を動かすっていうぐらいの気持ちにならないとだめじゃないかなって思っている。だから、枠からはみ出ていろんなことをしようとしているってなる。
まさに他団体との協働につながってくるわけです。 
 
 
リユース食器が広がらず、経営課題に直結。 
 
だからこそ新しいしくみが必要。 
 
 

箕浦: リユース食器のレンタルが頭打ちだと伺ったんですけど、リユース食器の広がりについてどんな風に感じて いらっしゃいますか?
 
永井: あの・・・広がっていないんです。実をいうと、スペースふうは今のまま事業を持続していくことは難しいと言われているんです。「どんなに理想が高くても志だけじゃやっていけないよ」と。どうやってビジネスとして自立できるか、持続可能な事業に育てていけるか、今スペースふうが問われているところです。
 
「永井さんたちは環境意識の高い人たちですよね。リユース食器を使ってもらいたくて一生懸命案を出すけれど、ほとんどの人たちはそんな意識のない人たちなんだよ。だから、そういう人の立場になって考えなきゃいけない んじゃないか」という助言もあります。
 
私たちが目指すのは、意識の高い、低い関係なく、ごみのないイベ ントが当たり前って思える社会にしたい。
 
意識しなくても、いつの間にかみんながそういう方向に向いている、みたいな、そんな社会のしくみをつくっていけたらいいなと思う。もっと、もっと大勢の人たちがリユース食器を使ってくれるようになれば、スペースふうは持続できるようになるはず。そのしくみづくりを今スペースふうは必死で考えているところです。 
 
 
箕浦: そのしくみというのは、スペースふうが事業を継続していくための経営のしくみのことですか?それとも人々がリユース食器を使いやすくなるための社会的なしくみのことですか?
 
永井: その両方ですね。そのしくみができれば、スペースふうだけじゃなく、全国の多くのリユース食器事業を運営している仲間のためにもなると思います。
 
レンタル事業をやっている事業所みんながうまくいくこと、全体の底上げが必要だと思っていて、そのためにはどういうしくみを作っていけばいいのか、ってことがいつも私の頭の中をぐるぐる回っています。 
 
 
 
理事長永井寛子の本音とは。 世代交代の今。 
永井: ただ、私はもう70 歳を超えています。「私がスペースふうで活動するのもあと2,3年だよ」、と周囲には以前から言っています。

でもね、こんな状況で次の世代につなげようなんて、そんな無責任なことはできませんよね。将来に向けての見通しがつくのを見届けないとやめられないなって。

私を含めて設立時からいる 3 人の古参仲間は年齢的なことも考慮して「引退」も考えていたけれど、今ここで引退っていうわけにはいかない状況になり、これからも若手スタッフと一緒に第一線で活動します、と先日みんなの前で宣言してしまいました。

いつも試行錯誤していて、日々、こうやってしょっちゅうもめながら軌道修正してやっているのよね、私たち(笑)


 
ユーザーの意識は変化したのだろうか? 
 
 
箕浦: 少し角度を変えた質問をしますが、10年以上リユース食器レンタル業をしてきた中で、ユーザーの意識の変化ってどう思いますか?  
 

 
永井: 実際リユース食器を使っているかどうかはまた別問題なんですけど、海ゴミの問題ではみなさんすごく意識が敏感になってきていて、つまり、使い捨てプラスチックのごみに敏感になっていて、ただ、それが即リユース食器を使いましょう、というところにはたどり着かない。
 
まだしくみがちゃんとできていないからネックになっているなって思うんですよね。
使いたいんだけれど使えないんだよねって。
 
箕浦: 使いたい人はいっぱいいる?
 
永井: いっぱいいます。だから「使うよ」って言いながら結局だめだったっていう人もいるんですよね、それはいろいろ運営面でもあるのかもしれないし、お金の問題もあるのかもしれないけれど。
 
あと、イベントって個人じゃなくて組織でやるでしょ、だから誰かが使いたいって思ったとしても組織を説得しきれないっていう、そういうのはあるんですよね。だからこそここで、誰もが納得できる新しいしくみをつくりたい。今取り組んでいる最中です。 
 

 
 
社会を変えていくために どんな支援・協力が必要? 
 

 
箕浦: 狭く言えばリユース食器の事業を継続していくため、広く言えば社会を変えていくためにどんな支援や協力が必要でしょうか?
 
永井:1つ目は、ぜひ使い捨て容器ではなくリユース食器を使ってほしい、そしてまだ気づいていない人に広めてほしいです。
 
2つ目は、この社会を変えたい=私たちの活動を応援したいという気持ちのある方には寄附という形で応援していただけたら嬉しい。応援してくれて いる人の存在が私たちの力になるから。
 
あと(笑)、活動している私たち自身が気づいていないことが実はいっぱいあって、自分たちの力が弱いっていうことは十分承知しているので、ぜひいろいろな助言をください。お願いします! 
 
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リユース食器事業を支援する         
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箕浦先生より対談を終えて
 
 
スペースふうには3つの顔がある。   
 
 
◆1つめの顔は「環境運動家」
「運動」とは新しい価値を提示し社会を変革しようとするものです。スペースふうは使い捨て食器をなくすという社会像を示し広めていこうとしている点で、「運動家」の側面をもっています。 
 
◆2つめの顔は「インフラ事業者」
つまり、電力や鉄道のような社会基盤を提供しているといえます。私たちは他に選択肢がなければ使い捨て食器を使うしかありません。リユース食器レンタル事業は、人びとの環境配慮行動を可能にするインフラなのです。
 
◆3つめの顔は「環境ガバナンスの仕掛け人」
「ガバナンス」とは、政府などが上から統治するのでなく、多様な主体が参画して社会を運営することです。スペースふうは、「エコイベント」の認 証制度を行政に提案したり、富士川町と協働して条例をつくったり、行政や市民団体・企業を巻き 込んで社会的なしくみをつくろうとしている点で、「環境ガバナンス」を仕掛けているといえます。
 
スペースふうは「リユース食器のレンタル事業者」という「インフラ」の顔が目立ちますが、同時に「運動」「ガバナンス」の顔をもっているところにユニークさがあると思います。 
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箕浦一哉

山梨県立大学国際政策学部教授。専門は環境社会学。環境保全に関する市民活動・ガバナンス、地方移住と地域コミ ュニティ、音風景・景観をめぐる地域文化・社会政策などの研究に従事。著書に『コモンズをささえるしくみ』(共著)、『生活環境主義のコミュニティ分析』(共著)ほか。


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